働き盛りのはずの40、50代の中高年のうち、6人に1人が働いていないと言われ、その数は増加傾向にあります。
様々な事情により、仕事をしない・働かない選択をする人たちは、求職活動をしていないので失業者の統計に反映されず、労働市場から消えた状態の「ミッシングワーカー」になっています。
なぜミッシングワーカーが増えているのか、その理由と実態について解説します。
ミッシングワ-カーとは?
働かず、求職活動もせず、親の収入(主に年金)に依存して暮らす40、50代の中高年が増えています。
雇用統計上、求職活動をしていない人は失業者の数に含まれておらず、労働市場から消えた状態の人たちのことを「ミッシングワーカー」と呼びます。
働きたくても働けない事情をもつ人がほとんどで、望んでミッシングワーカーになったわけではありません。しかし、ミッシングワーカーの数が増えているのは事実で、社会的問題にもなっています。
総務省「人口推計」(2018年)によれば、40~64歳人口は 4,235万人に対し、ひきこもりの推計数は61.3万人と推測されています。
自宅に半年以上閉じこもっている「ひきこもり」
・40~64歳が推計61万3千人
・15~39歳が推計54万1千人ひきこもりも高齢化か…
中高年ひきこもり61万人 内閣府が初調査:日本経済新聞 https://t.co/oOtkbR0Axp
— 転職コンサル山田 (@tenshokuz) February 1, 2020
その内訳は男性が76.6%となっています。
ミッシングワーカーが必ずしも完全なひきこもりというわけではありませんが、これだけ多くの働き盛り世代の男性が「働いていない」のは事実なのです。
ミッシングワ-カーの問題点
ミッシングワーカーが社会的問題とされる理由について解説します。
大きな社会的損失
少子高齢化の日本において、労働人口が減っていく中での中高年のミッシングワーカー化は大きな社会的損失です。
40、50代の中高年といえば、職場ではリーダーや管理職にあたり、バリバリ働いてたくさんの利益を生み出す、そんな存在であるはずです。
そんな彼らが働かない、利益を生み出さないわけですから、景気が上向きになるわけがありません。
こうした問題はリーマンショック後、なかなか景気の回復が見込めないアメリカでも大きな社会問題になっています。
貧困層の増大
ミッシングワーカーは失業状態と同じですから、当然収入がありません。
親の年金に頼って生活をしている人が多く、親が亡くなって年金が途絶えて貧困に陥る人も多いのです。
速やかに再就職できれば良いのですが、長年のミッシングワーカー生活によって、働く意欲をなくしてしまう人もいるのです。
ミッシングワ-カーに陥る原因
なぜミッシングワーカーになってしまうのでしょうか。その原因について解説します。
親の介護での離職
親の介護が原因で離職し、そのままミッシングワーカー化してしまう人も多いと言われています。
親が裕福であったり、自分の収入に余裕があれば、介護施設へ親を預けることもできますが、経済力がない場合は自分で介護するしかないのが現状です。
正社員なら「介護休暇」「介護休業」を利用することができますが、雇用期間が短い非正規労働者は対象外で、利用することができません。仕事と介護の両立をすることができず、介護のために働くことを諦めて、ミッシングワーカーとなってしまう中高年が非常に多いのです。
正社員であっても油断は禁物です。
親の介護のために離職したことがきっかけでミッシングワーカーになってしまう人もいるのです。
無為に生きてるのがツラい。在宅介護は、ミッシングワーカー扱いだし、自分は無意味で価値のない人間に感じる。何をやっても楽しくない無感地獄…いつまで続くんだろう…
— もふもふ@鬱アカ (@morikororon) April 7, 2020
中高年のミッシングワーカーに関する本を読んでいると、普通に、仕事をしている男性が、親を介護しなければならなくなった時、”仕事”か、”親の介護”かという、人生の究極の選択を迫られたときに、世間の目を気にして、”親の介護”
を選択している点だ。— デスメタリヤー (@dasiuytrey) March 29, 2020
非正規労働者の増加
雇用期間を限った非正規労働者の増加は、1990年代初めのバブル経済崩壊がきっかけとなり、正社員をリストラして、低賃金のパートや派遣社員に置き換えたことが原因です。
自ら「企業に束縛されず、好きなように働きたい」という人が増えたことも遠因になっています。
様々な働き方を容認する良策のようにも見えますが、「契約期間が終了したら終わる」仕事なので、先行きが不安定な雇用形態であります。また、正社員であればあるはずの様々な支援制度(介護休職制度など)が非正規労働者にはありません。
非正規労働者は企業にとって都合の良い労働力でしかありません。非正規労働者であっても、次から次に仕事があるなら良いのです。
しかし非正規労働者の仕事は比較的「簡単にできる仕事」「誰でも行うことができる仕事」であることがほとんどなので、仕事のスキルが育つということはほとんどありません。
仕事スキルが低いまま年齢だけ高くなっていくようでは、仕事の選択肢もなくなり賃金もどんどん低くなっていきます。次の仕事を見つけることもままならず、気づけばミッシングワーカーに陥っていたということは十分ありえるのです。
自分の病気
自分の病気や体調不良を理由に離職した後、再就職できなかった場合にミッシングワーカーとなってしまうケースもあります。
働くことができるほど体調は改善されているのに、長期間仕事から離れていたことによる自信喪失や、最低賃金の非正規雇用しか仕事がない状態で、働く意欲が低下しミッシングワーカー化してしまうのです。
ミッシングワ-カーにならないために必要なこと
ミッシングワーカーは誰に身にも起こりうる問題です。
正社員で働いていても、些細なことが原因で働けなくなって、再就職したくてもできずにミッシングワーカーとなってしまうこともあるのです。
ミッシングワーカーにならないためにはどんなことが必要なのでしょうか。
早期の再就職
離職しても、再度働けるようになった時にすみやかに再就職することが大切です。仕事から離れている時間が長くなればなるほど、再就職のハードルが高くなります。
無職の期間が長すぎると、採用する企業側も「ちゃんと仕事できるのか」と不安になりますし、本人も自信がなくなってしまうのです。
できれば正社員を目指すようにしましょう。
長期間離職していた人に強い転職サイトもありますし、働きたくても働けない人のための生活困窮者自立支援制度といったものもあります。「社会との関わりに不安がある」「他の人とコミュニケーションがうまくとれな
い」など、直ちに就労が困難な方に一般就労に向けた基礎能力を養う支援や就労機会の提供を行います。
早期に働く意欲を取り戻し、社会に復帰するように努力しましょう。
介護施設の利用
育ててもらった親を想うあまりに、介護施設は利用せず自分でみようとする気持ちはわかります。親本人が介護施設の利用を嫌がることもあるでしょう。
しかし、親はいつか先に亡くなります。
子自身の生活が先々まで安定するよう努力することが一番大切です。自分で介護するために正社員の仕事を離れるべきなのかは今一度しっかり考えましょう。
非正規労働者であっても、積極的に介護サービスなど福祉支援を受けるようにしましょう。
社会とのつながりを持ち続ける
人間にとって社会的承認は生きていく上で大切なものです。
これが損なわれると「自分は不必要な人間だ」という極端な思い込みに発展する恐れがあり、うつ状態に陥ることもあるのです。
実際、セルフネグレクトに陥ってゴミ屋敷に引きこもる原因も、ミッシングワーカーであることが少なくありません。
ミッシングワーカーは社会と切り離され、貧困に陥っていても支援の手が届かず、孤立していることが多いのです。ミッシングワーカーにとって必要なことは、社会とのつながりを取り戻し、また社会で働くことができるようになることです。
可能であれば、例えば介護しながらでも短時間、例えばデイサービスに預けている時間だけでも仕事を続けた方が良いです。仕事は一度離れてしまうと戻るのが不安になるものですし、外で働くことによって社会とのつながりが保てるからです。
ミッシングワ-カーへの理解と支援を
中高年の非正規労働者に親の介護がのしかかるとどうなるのか、ミッシングワーカーの実態を紐解くことによって明らかになりました。
ミッシングワーカーの問題は日本だけでなく、労働者に格差があり、弱い立場におかれている労働者が労働市場から排除されがちなアメリカをはじめとする先進諸国に共通する現象であることがわかってきています。
各企業がこうしたミッシングワーカーを生み出さないよう、働き方の多様性を模索してしますが、制度が追い付いていないのが現状です。
ミッシングワーカーは特別な存在ではなく、ふとしたきっかけで誰しも陥る可能性があるのです。
コメント