近年、正規雇用・非正規雇用を問わず企業の人手不足がメディア等に盛んに取り上げられています。
経営者にとって人手不足は大きな問題ですが、最近では、人手不足を原因として企業が倒産する「人手不足倒産」にまで至るケースが増加しています。
このような倒産は人手不足関連倒産や人手不足倒産と呼ばれ、失業を問題としていたバブル崩壊後の長期低迷期から一転、新しい社会問題となりつつあります。
しかしながらニュースを聞きながら「人手が不足しているなら給料アップすればいいんじゃないの?だって仕事はあるんでしょう?」といった疑問を持っている人も多いはず。
そこで今回はこの人手不足倒産とはどのような状態なのか、そして発生する原因や疑問、対策について解説していきます。
人手不足倒産とは
人手不足倒産と聞くと単純に人でがいない=仕事がまわない、そして業績が傾き倒産、というイメージもありますが、実はいくつかパターンがあります。
それは「後継者難」「求人難」「人件費高騰」「従業員退職」という4つの原因から企業が倒産することをいいます。
- 「後継者難」・・・代表者や幹部役員の死亡、病気入院、引退などを原因として倒産。
- 「求人難」・・・人手確保が困難で事業が継続できなくなったことで倒産。
- 「人件費高騰」・・・人件費の高騰から収益が悪化したことから倒産。
- 「従業員退職」・・・中核社員の独立、転職などで事業継続に支障が生じたことで倒産。
人手不足倒産の一番の原因はで人員の欠如を補えなかった、もしくは補うために人件費を高騰させたものの収益が悪化して倒産したという、人員補填の困難や失敗を共通の原因とみることができます。
そのため人手不足倒産は、採用活動がうまくいっていない企業や資産に余裕のない企業、つまり中小・零細企業で発生する特有の問題となっています。
人手不足倒産の件数推移
東京商工リサーチの調査では、人手不足倒産は2013年度の調査開始から以下のように推移。2018年度は最多の400件に達したと発表されています。
年度 | 人手不足倒産件数 |
2013年 | 277件 |
2014年 | 337件 |
2015年 | 345件 |
2016年 | 327件 |
2017年 | 311件 |
2018年 | 400件 |
2018年度の要因別では、「後継者難」が前年度比7.6%増の269件、「求人難」が前年度比2.6倍増の76件、「人件費高騰」が前年度比2.1倍増の30件、「従業員退職」が前年度比38.8%増の25件を記録しています。
さらに、2019年度上半期の人手不足倒産は、過去最悪の2018年度と並ぶ227件を記録。
要因別の内訳では、「後継者難」が前年同期比24.7%減の134件、「求人難」が前年同期比2.1倍増の51件、「従業員退職」が前年同期比2.2倍増の25件、「人件費高騰」が前年同期比21.4%増の17件と「求人難」「従業員退職」の著しい増加が報告されています。
出典2018年度「人手不足」関連倒産(東京商工リサーチ)
出展「人手不足」関連倒産、7月は36件、全国8地区で広く発生(東京商工リサーチ)
人手不足倒産の主な原因
人手不足倒産はなぜ起きるのでしょうか。
その主な原因を説明していきます。
近年、人手不足が進行している根本の理由は、少子高齢化による労働力人口の減少と戦後最長と言われる景気拡大です。
それに伴い大企業から中小企業まで広い業種で人手不足に陥っています。そのため賃金や待遇などがより良い大企業に人員が流れていることが原因となっています。
急な退職者が増えた
中小企業では能力が高く中核的な仕事に携わっている人員が、より良い条件の企業に転職するため退職者が増加。
「人手不足倒産の件数推移」に述べたように、「従業員退職」が原因として倒産に至るまでの事態も起こっています。
しかしこれは有効求人倍率が上昇している現在、大企業も人手不足なので当然の流れと言えます。一般に大企業は中小企業より賃金や待遇がより良いでしょう。
さらにはIT化が進んでいるために仕事をする環境も良く、仕事の規模も大きいために社員はやりがいをより感じることができます。
そのためそのような企業に転職が可能である現在、中小企業で評価が高い人員が大企業に移るのは当然の流れと言えるでしょう。
新規採用が進まない
中小企業で新規採用がすすまないのも、退職者が増えた理由と同等であり、また「求人難」を原因とする倒産も増加傾向にあります。
新卒採用、中途採用を問わず、求職者はより良い賃金や待遇、やりがいのある仕事を求めます。
そのため大企業の採用枠は埋まりますが、全体の採用枠と比較して求職者が少ないために中小企業には人員は流れません。
人手不足倒産を防ぐために給料アップするだけでは対応できなくなっている
賃上げすれば人手不足倒産は防げるのではないかと疑問を持つ方もおられるかも知れません。
しかし多くの業種で賃上げが進んでいる現在、賃上げするだけで生産性の向上や人件費の商品への価格転嫁に失敗した企業は、業績が低迷または倒産しています。
つまり人手不足倒産の防止には、賃上げ以外の方法で採用を考えるか、賃上げと連動した生産性の向上などの工夫が必要となるのです。
従業員の給与アップ以外の方法で採用を考える
従業員の給料アップはもちろんですが、これでも限界はあります。
それには、仕事から離れてしまっている女性や高齢者という未だ働く余地のある人材を積極的に採用する方法があります。
女性については就業時間に柔軟性を持たせることで、非正規やパートタイムで働いている人を呼び込める可能性があります。
これは高齢者にも言えることで、フルタイムでの採用を避けることで、就業したいと考える方もいらっしゃるでしょう。
人手に頼らないシステム化
近々の賃上げが難しい企業の人手不足解消には、生産性の向上が必要不可欠となるでしょう。
生産性を向上させるには、人手に頼らないシステム化、つまり同一の業務を如何に人手を減らして行うかを工夫する必要があります。その方法として挙げられるのが、機械化とIT化です。
とくにIT化は、経理や会計などの業務改善だけでなく、社内外問わないコミュニケーションツールなど大部分の業種に適用することができます。
その導入には、業務の整理やIT化による効率化可能な業務のピックアップなど注意する部分は多いですが、生産性の向上には不可欠な要素と言えるでしょう。
職場環境や就業環境を改善して退職者を減らす
賃上げ等によらない退職者の減少策も必要となります。
それには働く人が快適に業務を行えるよう職場環境を整えるとともに、ライフワークバランスを考慮した就業環境を提供することが重要です。
それは例えば、女性が働きやすいように男女比のバランスを考える、納期などに余裕を持たせることで社員にストレスを与えないなど様々な工夫が考えられます。
人手不足倒産について まとめ
以上のように、人手不足倒産は下記が原因となって倒産してしまうことです。
- 「後継者難」・・・代表者や幹部役員の死亡、病気入院、引退などを原因として倒産。
- 「求人難」・・・人手確保が困難で事業が継続できなくなったことで倒産。
- 「人件費高騰」・・・人件費の高騰から収益が悪化したことから倒産。
- 「従業員退職」・・・中核社員の独立、転職などで事業継続に支障が生じたことで倒産。
また人手不足倒産は中小企業で近年増加傾向にあるものの、根本原因が少子高齢化と景気拡大にあるため、解決が難し社会問題となっています。
その解決には、未開拓人材の採用や労働生産性の向上、人手に頼らない業務改善といったことが必要とされます。
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